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事業再生関連法規制度等について

社内勉強会

短期賃借権廃止・競売関連法改正と不動産取引への影響

「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」は平成16年4月1日に施行されるが、不良債権の処理を迅速に行う為、まさに金融機関の為に改正されたという印象です。以下に法改正のポイントをまとめてみました。

1.短期賃借制度の廃止とその影響

 「短期賃貸借制度」が廃止となる。よって、今まで抵当権者及び競売における買受人に対抗することができたものができなくなる。結果として、競売にて所有権が移転し、オーナーが変わった場合は敷金が継承されないことになる。敷金は旧所有者に対して請求権を持つことになるが、競売された状況から実質的には戻ってこないと考えるべきである。
不動産が差押される前に締結された賃貸契約或は更新は、その契約期間中に限り6ヶ月間の明け渡し猶予期間が与えられる。簡単に言えば、賃借人は6ヶ月以内に退去しなくてはならない。

 その上、競売により所有権が移転後、建物使用者がその対価の支払を1ヶ月分以上せず、相当の期間を定めて催告しても履行がない場合、6ヶ月間の猶予期間さえ適用されなくなる。この猶予期間中の建物使用料は賃料ではないので、敷金との相殺はできない。実務上敷金の相殺が可能なのは、契約残存期間中ということになる。ただし、これも抵当権の物上代位による賃料差押には対抗できない。抵当権の物上代位による賃料差押は、ちなみに賃料債権の債権譲渡にも優先される。
 抵当権の登記後に登記された賃借権は、これに優先する全ての抵当権者の同意を得て、その同意を登記した場合に限り、当該抵当権者及び競売による買受人に対抗できる。

 唯一の救いは、16年4月1日時点で現に存在する短期賃貸借は、従前通り短期賃貸借の保護が認められることである。(法施行後に更新されたものを含む)例外として、定期借家権は更新ではなく再契約となるため、原契約の満了をもって短期賃貸借は保護されなくなる。

 短期賃借制度の廃止に伴い、宅地建物取引業法上の重要事項説明義務の範囲については、原則的には個別の物件を離れて一般的な法律等の内容や解釈等を説明する必要はないが、(1)抵当権が設定されている場合、万一抵当権が実行されたときは競落人に対し賃貸借契約を対抗できない(2)その場合の明け渡し猶予期間は6ヶ月であるが、建物使用料を払わないと猶予期間は適用されなくなる(3)敷金は従前の賃貸人に返還請求することになる、ということは説明しておくべきである。

2.指名債権質の要物性の緩和

 たとえば敷金返還請求権を質入する場合、従来とは異なり、賃貸借契約書原本を交付することが要件ではなくなるが、実態的には、債権者は原本交付を要求すると思われるので特に実務上の変化はないと思われる

3.収益管理型の抵当権実行制度の創設

 抵当権の実行としては競売が主であり、例外的に賃料差押等の物上代位が行われていたが、今回の改正で「担保不動産収益執行制度」が創設された。これは現強制執行における強制管理に相当するが、裁判所が選任した管理人(執行官或は弁護士)が管理し、賃料より不動産管理に関する費用を差し引いて抵当権者に配当されることになる。物上代位による賃料差押は、その後の物件管理に問題が生じる可能性があったが、その懸念がなくなる。よって、私見ではあるが、事情によっては金融機関が遠慮していた物件でも、この制度を使って実行してくる可能性が出てくると思われる。この制度による期間の制限はない。尚、従前行われてきた物上代位も併存となっている。つまり、抵当権者が、競売、賃料差押、担保不動産収益執行制度のいずれかを選択できるという意味で、回収方法の選択肢が増えたことになる。

4.「滌除」制度から「抵当権消滅請求制度」への変更点

(1)名称が滌除から抵当権消滅請求制度に変わった。
(2)地上権者と永小作権者は適用が除外された。
(3)抵当権者が抵当権を実行する場合、第三取得者に対し通知する必要がなくなった。
(4)抵当権消滅請求が可能な時期は競売開始決定にかかる差押効力が生ずるときまでとなった。
(5)抵当権消滅請求を受けた後の競売申立期間を2ヶ月とし、増価競売の申立義務も買受義務も廃止。

5.一括競売制度の改正

 従来は土地の抵当権設定後に建築された建物については、抵当権設定者が建築した建物に限定して一括競売が可能であったが、新法では第三者が建築した建物についても一括競売が認められることになった。

6. 占有移転禁止仮処分命令や承継執行文の実務の変更

 民事保全法上の占有移転禁止仮処分により、裁判所の命令により、占有が移転することを禁止することができるようになった。民事執行法上の占有移転禁止仮処分の創設により、占有の相手方を特定しなくても良いことになった。承継執行文の改正により、承継執行文は、相手方を特定しなくても出せるようになった。これにより、これらの債務名義に基づく強制執行をするまえに、不動産の占有者を特定することが困難とする特別な事情があるときは債務者を特定せずに承継執行文を付与することができるようになった。

7.不動産の内覧制度の創設

 従来の競売手続では、買受希望者が不動産の内部を見ることはできなかったが、新法では、差押債権者の申立により、執行裁判所の命令により、不動産の内覧ができるという制度が創設された。

8.債務者の財産開示制度の創設

 判明している財産のみでは強制執行しても債権を満額回収できない場合に、執行裁判所が債務者に財産の開示を命じ、債務者は財産開示期日に出頭して、自らの財産の内容を債権者に開示しなければならないとする制度が創設された。これに違反した場合、30万円以下の過料となる。これも私見ではあるが、状況によって今後慎重な対処を要すると思われる。嘘をつくことになるならば、出頭せず、30万円以下の過料のほうが良いのではないだろうか。



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